現金のない相続はなぜ詰みやすいのか…不動産と取得費不明株式しかない家族の実例

今回は、最近、問い合わせの多くなってきた相続の話をしてみたいと思います。
この記事は、一般論ではなく、よくある「詰みかける実例」を整理したものとなります。
よくあるパターンであるにもかかわらず、実務的には非常に難易度の高い相続のケースを扱ってみたいと思います。
前提となる家族・資産構成
【父】
・居住用マンション:3000万円
・取得費不明の上場株式:7000万円
【母】
・認知症
・取得費不明の上場株式:1000万円
【子A】
・配偶者あり
・子どもあり
・現金なし
【子B】
・独身
・現金なし
家族全員、預金らしい預金はなく、資産の大半が「不動産」と「取得費不明の株式」という相続的には厄介な構成となっています。
一見すると「それなりの資産家」のように見えますが、相続の現場では詰みやすい典型例でもあります。
相続に関する注意点
まずは、相続に関する基本的な注意点を3つほど見ていきたいと思います。
注意点① 取得費不明株式には「5%ルール」
まずは、相続に限った話ではなく、株式売却の話となりますが、
取得費が不明な株式を売却すると、
・取得費:売却価額の5%
・残り95%が譲渡益扱い
・税率は約20%
となってしまいます。
たとえば、取得費不明の株式を1000万円売却すると、
・課税譲渡益:950万円
・税額:約190万円
売却した瞬間に2割近く消えることになってしまうのです。(恐怖の5%ルール)
注意点② 現金がないなら、生命保険はほぼ必須
このケースでは、
・不動産は売却できない
・取得費不明の株式は売却すると5%ルールが発動
このため、生命保険で納税資金を作るのが最適解となります。
・500万円×相続人3人=1500万円(保険の非課税枠)
余裕を見て1500万円〜2000万円
実務的に、原資は、
・父の取得費不明株式を最低限だけ売却
・保険だけに変換
となるでしょう。
よくある失敗は、
「相続後に株を売って納税すればいい」
と安易に考え、5%ルールで想定以上の税金を払ってしまうケースです。
注意点③ 認知症があると、遺産分割協議が厳しくなる
母は認知症ということなので、遺産分割協議は原則できません。
このため、公証人2名が立ち会い作成する公正証書遺言がないと、相続が止まってしまう可能性が非常に高いです。
特に、
・不動産
・取得費不明の株式
という分割しにくい資産がある場合は、遺言がないと、非常に苦しい相続になってきます。
※正確には「意思能力が認められない場合」、遺産分割協議ができません。
父が亡くなった場合の相続税の全体像
父の遺産総額
・不動産:3000万円
・株式:7000万円
・合計:1億円
法定相続人
・母、子A、子Bの3人
基礎控除
3000万円+600万円×法定相続人3人=4800万円
課税遺産総額
1億円ー4800万円=5200万円
この5200万円に対して、
「誰がどれだけ取るか」
で、相続税の金額が大きく変わってきます。
ケース①:法定相続分どおりに分けた場合
法定相続分
・母:1/2
・子A:1/4
・子B:1/4
取得額イメージ
・母:5000万円
・子A:2500万円
・子B:2500万円
相続税の概算
法定相続分で計算した相続税総額は、おおよそ650万円前後。
※税率区分や端数処理により、実際の税額は前後しますが、全体像を掴むための概算です。
按分すると、
・母:約160万円
・子A:約245万円
・子B:約245万円
※相続税は一旦、法定相続分で計算した合計額(約650万円)を、実際の取得割合に応じて負担する形になります
ケース②:母に居住用+株式を多めに渡した場合(最適化)
次に、実務でよく使われる設計を見てみましょう。
分割イメージ
【母】
・居住用マンション:3000万円
・株式:4000万円
・合計:7000万円
【子A】
株式1500万円
【子B】
株式1500万円
ポイントは「母の取り分」にあります。
なぜ母に寄せると相続税が下がるのか
理由はシンプルです。
配偶者の税額軽減
配偶者は、
・1億6000万円
・または法定相続分
のいずれか多い金額まで相続税がかからないというルールがあります。
今回のケースにおいて、母の取得額は7000万円ですが、配偶者の税額軽減により、1億6000万円まで相続税はかかりません。このため、母の相続税は0円となります。
最適化後の相続税の概算
母の税額がゼロになるため、相続税は子だけで負担する形になります。
相続税総額
約400万円程度
子の負担
・子A:約200万円
・子B:約200万円
法定相続分(約650万円)より、200万円以上圧縮される
数字以上に大きいのは、
・母の納税資金が不要
・子が納税計画を立てやすい
という実務上のメリットがある点です。
二次相続まで見据えると「母に株式を退避」させる意味
一次相続では「子が少なく、母が多く」取る形になりますが、
母は高齢であり、二次相続までの期間はそれほど長くない可能性が高いでしょう。
結果として、課税を一度先送りしているだけであり、トータルでは合理的な設計になる場合が多いです。
ただし、母に資産を寄せすぎると、二次相続で再び同じ問題が起きるため、「寄せすぎない設計」が重要になります。
取得費不明株式は、相続後も要注意
重要なのは、次のポイントです。
取得費不明の株式について、
・相続した瞬間:課税なし
・売却した瞬間:5%ルール発動
相続税を払ったあとでも、取得費不明の株式は動かすと税金がかかることに注意しましょう。
取得費不明の株式を相続により取得した子A、子Bの基本スタンスは、
・すぐに売却しない
・配当を受け取る
・必要な分だけ、少しずつ売却する
父の世代がやっていた
「動かさず、配当だけもらう」
戦略が、やはり合理的だったのです。
まとめ:この相続で一番大事な視点
このケースの本質は、
「節税のテクニック」
ではなく、
「現金がない状態で、相続をどう詰ませないか」
だと思っています。
・配偶者控除を最大限使う
・生命保険で納税資金を作る
・公正証書遺言で手続きを止めない
・二次相続まで含めて設計する
・取得費不明株式は「触らない前提」で考える
このあたりができていれば、このケースにおいて、相続は十分にコントロール可能となるでしょう。
もし自分の家が
・不動産が多く
・株の取得費が分からず
・預金がほとんどない
のであれば、「うちはまだ大丈夫」と思っている今が、一番危ないタイミングかもしれません。
※実際の相続では、税理士や司法書士などの専門家へ相談をお願いいたします。






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