サプライチェーンマネジメントの基礎知識:デカップリングポイントって何?

私は、大企業をターゲットとした業務改革コンサルタントです。
SCM(サプライチェーンマネジメント)に関する業務・ITのコンサルティングを行っています。
20年以上もこの仕事に携わっていますので、ネタは多すぎるほどあるのですが、守秘義務があるため、ここでは書けません。
このため、一般的な用語紹介にとどめたいと思います。
サプライチェーンマネジメントの業務改革を進めていく際、デカップリングポイントという言葉をよく使います。
私の中ではよく使う単語ですが、一般的に通用する言葉ではないようです。
今回は、このデカップリングポイントについて、簡単に紹介していきたいと思います。
プッシュ型とプル型
サプライチェーンマネジメントには、プッシュ型とプル型という2つの考え方があります。
プッシュ型とは、文字通り「押し出す」という意味です。
顧客ニーズにかかわらず、とにかくモノを生産して押し出す(売り切る)という考え方です。
昔、景気がよかった頃は「作れば売れる」という時代でした。
大量にモノを作りさえすれば、売上はおのずとついてきました。
まさに、プッシュ型ビジネスの全盛期でした。
一方、プル型とは、プッシュ型の逆の意味で、顧客のニーズに基づいて生産数を決める形態になります。
サプライチェーンマネジメントの目的である
「必要なモノを、必要なときに、必要なだけ、供給する」
といった思想は、このプル型を意識したものになっています。
製品のライフサイクルが非常に短いハイテク商品などは、作った分だけ売り切って終わり!という商品が多いです。
このため、プッシュ型の形態をとります。
しかし、サプライチェーンマネジメントを設計する際には、顧客のニーズを出発点として、プル型のビジネスモデルを設計していくことが重要になるケースが多いです。
デカップリングポイントとは?
では、このプル型のビジネスはどのように考えていけばよいのでしょうか?
例として、ジュースなどの飲み物を考えてみましょう。
お客さんがお店にやってきました。
「ジュース3本ください」
お店の人が聞きました。
その後、ジュースを3本、お店の人が、飲料メーカーに電話でお願いして、メーカーが原料から作り始めるとします。
日が暮れて、お客さんは怒って立ち去ってしまいますよね。
お客さんの感覚では、ジュースは普通、お店の棚に並んでいるものです。
お客さんの声(ニーズ)を聞いてから、モノを作り出すのが、完全プル型のビジネスモデルになります。
しかし、実際、お店でジュースを原材料から作ることはできません。
そこで、生産者側は、ある程度、プッシュ型でジュースを事前に生産してお店や倉庫に在庫を用意しておくのです。
ただ、完全にプッシュ型にしてしまうと、お店に在庫が膨らんでしまいます。
このため、少しだけプル型の考えも混ぜることになります。
生産者である企業は、まず、お店や自動販売機で、どのジュースが何本くらい売れるかを事前に予測します。
その予測をもとに、何本つくるかを決めていくのです。
この予測を、業界では、需要予測とか販売計画と呼んでいます。
プッシュ型の形態をとっていますが、需要を読むことで、プル型の考えも取り入れているのです。
つまり、ある在庫拠点までは、プッシュ型で在庫を配置しておきます。
その後、プル型で需要のニーズに合うように、在庫を引き当て、出荷・販売していく形をとるのです。
冒頭の話に戻りましょう。
このプッシュ型とプル型の分岐点となる在庫拠点や倉庫のことを「デカップリングポイント」と言います。
メーカーからデカップリングポイントまでの供給側では、予測・計画主導で在庫を構えておきます。(プッシュ型)
逆に、デカップリングポイントから顧客までの小売側では、実際の需要で在庫を引き当てて出荷します。(プル型)
言い方を変えれば、デカップリングポイントは、見込生産(生産者が需要予測に基づいて生産すること)と、受注生産(実需に基づいて生産を始めること)の分岐点であるとも言えるでしょう。
デカップリングポイントが、消費者側に近づけば近づくほど、在庫を抱えるリスクが高まり、キャッシュフローが悪化します。
逆に、デカップリングポイントが、生産者側に近づけば近づくほど、欠品に伴う販売機会ロスのリスクが高まっていきます。
このため、最適なデカップリングポイントを設計することが非常に重要になってくるのです。
サプライチェーンマネジメントが成功するための肝といえるでしょう。
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