知識から思考へ!巡回セールスマン問題に見る最適解の概念とは?

寒くなってきて、受験の季節が近づいてきましたね。
そこで、今回はアカデミックな話を少しだけ。
日本の大学ではさまざまな研究がなされています。
最先端の研究が実用化に結び付けばいいですが、現実問題として、そうなるケースは少ないと言われています。
私も、大学や企業で研究を重ねてきましたので、実用化の難しさは痛いほど理解しているつもりです。
この橋渡しをする概念として、
「知識から思考へ!」
ということが言われ続けてきました。
勉強の世界でもそうですよね。
巡回セールスマン問題
数学という学問と、社会への実用化をつなぐ代表的な例題として、
「巡回セールスマン問題」
というものがあります。
初めて耳にする方も多いのではないでしょうか。
理系や情報系の学生であれば、一度は聞いたことがあるかもしれませんね。
では、簡単に、巡回セールスマン問題について、見ていきましょう。
【問題】
A、B、C、Dと4つの拠点があるとします。あるセールスマンがいて、A拠点を出発して、すべての拠点を訪問してから、最後にA拠点に戻ってくるときに、一番、総移動距離が短く戻ってこれるのは、どのパターンですか?
すべてのパターンを列挙してもらうと分かると思いますが、答として考えられるパターンとしては、次の3通りがあります。(逆からも考えてみてくださいね。)
①A→B→C→D→A
②A→B→D→C→A
③A→C→B→D→A
この3通りの総移動距離をすべて計算して、一番少ないものを正解とすれば完了となります。
本例のように、拠点が4つだと巡回セールスマン問題も簡単です。
しかし、拠点が5つ、6つ…と増えていくと、
この問題はパターンが爆発的に増えていき、正解を探すのがとても難しくなります。
15拠点くらいになると、何百億パターンの計算をしないといけなくなります。
このため、この問題を解く場合には
「すべてのパターンの移動距離を調べて、総移動距離が一番少なくなるパターンを見つける」
という正攻法が通じなくなります。
そこで、
「部分的に調べて、そこそこ距離が短くなりそうなパターンを見つける」
と方針を転換して考えるのです。
正解に到達することを諦め、妥協したイメージです。
この場合の答は、正解ではなく、(局所)最適解と呼びます。
知識から思考へ
巡回セールスマン問題では、正解がなく、妥協した解を目指しました。
現実問題として、正解というものがないことを学んだのです。
そこで、2つの力を、私なりに定義してみたいと思います。
①知識力
②思考力
私は、①の知識力については、
・答え(勝ち負け)のあること
・過去に起きたこと
を蓄積する能力を指していると考えています。
この定義に当てはめてみると、
受験、資格試験、クイズ、オセロ、将棋、囲碁…
も、すべて知識力の範疇になります。
よく、物理や数学は思考だと言われます。
ただ、誰かが採点して得点をつける以上、パターンの暗記でなんとかなると考えています。
逆に、②の思考力については、
・答え(勝ち負け)のないこと
・未来に発生すること
について扱う能力を指していると考えています。
この定義だと、
人生、地震予知、国際問題、経営、研究、美人コンテスト…
などが思考力を要するテーマになります。
どれも、正解や公式というものがないため、自力で判断し、切り開いていくしかないものばかりです。
先の巡回セールスマン問題も、①知識力ではなく、②思考力よりの問題だと捉えています。
ハーバード大学や東京大学を卒業するような優秀な人材が集まったとしても、北朝鮮問題や領土問題が何十年も解決されない状態となっているのは、①の知識力だけでは限界があり、②の思考力が求められていることに他なりません。
①の知識力には、評価・判断できるものさしが存在しますが、②の思考力には、評価・判断できるものさしが存在しません。
「あなたの人生」と「わたしの人生」について、どちらが幸せでどちらが勝ちなのかも、誰も採点することはできません。
①の知識力のナンバーワンは決定できますが、②の思考力にナンバーワンはなく、オンリーワン(部分最適解)を探すことになります。
悲しいことに、①の知識力は、まさに、ビッグデータや人工知能(AI)に代替されようとしています。(まだ時間はかかると思いますが。)
しかし、②の思考力は、おそらく、人工知能(AI)が人間にかなう日は来ないでしょう。
玉虫色・政治力・抽象的・根性論・妥協・センス…
これらの概念をうまく活用していくことこそが、思考力を鍛えることになっているのです。
私のメイン事業である、業務改革のコンサルティングもこちらの能力を要する職種だと認識しています。
だとすると、①のような暗記や記憶ではなく、②のような混沌とした社会を生き抜く漠然とした対応能力を磨いていくことに、軸足を移していくほうが賢明だと、私は考えています。
・理想から現実へ
・正解から局所最適解(妥協解)へ
そして、この妥協解を求めること。
これこそが、現代のビジネス社会で必要とされているスキルではないのか、と私は確信しています。