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「サラリーマン大家」はかつて、なぜあんなに増えたのか?

不動産賃貸業

少し前まで、「サラリーマン大家」という言葉をよく聞きました。

書店に行けば、

「会社員でも大家になれる」
「サラリーマンが不動産で資産を作る」
「家賃収入で会社を辞める」

といった本がたくさん並んでいました。

不動産投資のセミナーも盛んでした。

普通の会社員がワンルームマンションを買ったり、アパートを買ったりする。

家賃収入でローンを返しながら、少しずつ物件を増やしていく。

今から考えると、少し不思議な光景でもあります。

普通の会社員が、何千万円もの借金をして不動産を買うのです。

冷静に考えれば、かなり大きな話です。

それなのに一時期は、

「会社員が不動産投資をする」

ということが、それほど珍しい話ではなくなっていました。

実は、私自身もその一人でした。

私は2010年代、まだ会社員だった頃に不動産投資を始めました。

大阪市内の区分マンションでしたが、銀行から融資を受けて1戸買う。

そして、また融資を受けて次の物件を買う。

そんなことを繰り返し、最終的には8戸まで物件を増やしました。

今振り返ると、

「よく普通の会社員が、そんなに簡単に何千万円ものお金を借りられたな」

と思います。

しかし当時は、それほど不思議なことだとは感じていませんでした。

なぜ、あの頃はそれができたのでしょうか。

そして、なぜ「サラリーマン大家」はあんなに増えたのでしょうか。

普通の会社員が、なぜ何千万円も借りられたのか

不動産投資には、大きなお金が必要です。

株式投資なら、数万円からでも始められます。

投資信託なら、もっと少額からでも可能です。

しかし、不動産はそうはいきません。

都市部のワンルームマンションでも数千万円。

一棟アパートやマンションなら、数千万円から億単位になることもあります。

普通の会社員が、そんな現金を持っているはずがありません。

では、なぜ買えたのか。

答えは単純です。

銀行がお金を貸してくれたからです。

もちろん、誰にでも貸してくれるわけではありません。

そこで重要になったのが、会社員としての「属性」でした。

勤務先。勤続年数。年収。年齢。保有資産。他の借入状況…。

こうしたものを金融機関が評価します。

特に安定した企業に長く勤め、一定以上の年収がある会社員は、金融機関から見れば比較的信用力の高い存在でした。

つまり、サラリーマン大家の最大の元手は、最初から不動産でも現金でもなかったのです。

会社員として積み上げてきた信用力でした。

私も、その信用力で物件を増やしていった

これは教科書の話ではありません。

私自身が、実際に経験したことです。

2010年代、私は会社員として働きながら、不動産を少しずつ買い増していきました。

1戸買う。しばらくすると、また金融機関から融資を受ける。

そして2戸目、3戸目と増やしていく。

最終的には8戸まで増えました。

もちろん審査はあります。

書類も提出します。

金融機関によって条件も違います。

それでも私の記憶では、

「次の物件を買いたいけれど、お金を借りられるだろうか」

ということに、今ほど大きな壁を感じていませんでした。

会社員として毎月給与を受け取っている。勤続年数がある。一定の年収がある。それまでの返済実績もある。

そうしたものを金融機関が見て、融資をしてくれる。

そして、その融資で次の物件を買う。

当時は、それが一つの普通の流れになっていました。

今の金利や物件価格を見ながら考えると、

「あの頃だからできたのではないか」

と思うことがあります。

私に特別な不動産投資の才能があったわけではありません。

物件を見る目が誰よりも優れていたわけでもありません。

未来の不動産価格を正確に予測していたわけでもありません。

むしろ、

会社員としての信用力があり、それを金融機関が大きなお金に変えてくれる時代だった。

この要素が、とても大きかったように思います。

「信用力」という、目には見えない資産

考えてみれば、会社員の信用力とは不思議な資産です。

預金500万円なら、銀行口座を見れば分かります。

株式1000万円なら、証券口座を見れば分かります。

不動産なら、登記簿にも載っています。

ところが、会社員としての信用力はどこにも表示されません。

毎朝会社へ行く。仕事をする。毎月給料を受け取る。それを何年も続ける。

本人からすれば、ただ会社員として生活しているだけです。

しかし金融機関から見ると「この人には、今後も安定した収入が入ってくる可能性が高い」という評価になります。

その目に見えない信用力によって、自分の預金額をはるかに超えるお金を動かせるようになります。

そして、そのお金で不動産を買う。

入居者から家賃が入る。

その家賃でローンを返す。

10年、20年と時間が経てば、少しずつ残債が減っていく。

つまり、会社員としての信用力を、銀行を経由して、不動産という資産へ変えていく。

これが「サラリーマン大家」という仕組みの本質だったのではないかと思います。

そこへ「低金利」が重なった

ただし、会社員に信用力があるだけでは、サラリーマン大家はあれほど増えなかったと思います。

もう一つ、大きな条件がありました。

低金利です。

不動産投資では、借入金利が収支に大きく影響します。

同じ2000万円を借りるとしても、金利1%と3%、4%では返済額が違います。

金利が低ければ、毎月の返済負担を抑えることができます。

すると家賃収入から、管理費を払い、修繕費を見込み、固定資産税を払い、銀行への返済をしても、収支が成立する物件が出てきます。

もちろん、実際の不動産投資はそんなに単純ではありません。

空室もあります。設備も壊れます。家賃が下がることもあります。管理費や修繕積立金が上がることもあります。

それでも、低金利は不動産投資にとって大きな追い風でした。

特に借入を使って物件を増やすサラリーマン大家にとっては、金利の低さそのものがゲームへの参加条件を緩くしていたのだと思います。

不動産だけは、大きな「レバレッジ」を使えた

ここも、不動産投資の面白いところです。

普通の会社員が銀行へ行って、

「株を2000万円買いたいので、2000万円貸してください」

と言っても、簡単には貸してくれません。

ところが「2000万円のマンションを買います」となると、話が変わります。

そこには不動産という担保があります。

家賃収入もあります。

そして本人には給与所得があります。

だから、普通の会社員でも大きなお金を借りることができました。

手元に数百万円しかなくても、数千万円の不動産を動かすことができる。

いわゆるレバレッジです。

私が会社員時代に物件を増やせたのも、まさにこの仕組みがあったからです。

自分で現金を貯めてから買ったわけではありません。

そんなことをしていたら、おそらく8戸には到達していなかったでしょう。

銀行のお金を使うことができたから、普通の会社員でも物件を増やすことができた。

これが、不動産投資と他の資産形成との大きな違いでした。

会社員であることが「武器」になった

資産形成の話では、

「会社員は自由がない」
「給料だけではお金持ちになれない」

といった話がよく出てきます。

しかし、サラリーマン大家の世界では少し違いました。

会社員であることそのものが、武器になったのです。

毎月決まった給料が入る。勤続年数が長い。安定した勤務先がある。社会保険にも加入している。

普段は当たり前すぎて意識しないこうしたものが、金融機関の世界では信用になります。

そして面白いことに、会社を辞めて独立すると、この武器が弱くなることがあります。

収入そのものは会社員時代より増えている。

それでも、金融機関から見ると会社員時代のほうが評価しやすい。

そんなこともあります。

そのため、

「会社を辞めるために不動産を買う。でも、会社を辞める前に物件を増やしておく」

という、一見すると不思議な戦略にも合理性がありました。

会社員という立場から自由になるために、会社員という立場を最大限利用する。

サラリーマン大家とは、そんな少し矛盾した仕組みでもあったのだと思います。

「給料以外の収入がほしい」という時代

金融環境だけでブームになったわけでもないでしょう。

会社員側にも需要がありました。

給料だけに頼るのは不安だ。

老後も心配だ。

会社がいつまで安泰か分からない。

できれば、会社とは別の収入源がほしい。

そんな思いを持つ人は、昔から少なくありません。

そこへ「毎月、家賃が入ってくる」という不動産投資の分かりやすさが重なりました。

給料とは別に、毎月5万円、10万円、20万円と家賃が入ってくる。

物件を増やせば、その金額も増えていく。

その先には「いつか家賃収入だけで暮らせるかもしれない」という物語があります。

今なら「FIRE」という言葉があります。

新NISAを使ってインデックスファンドを積み立て、金融資産を増やしていく方法も広く知られるようになりました。

しかし、その少し前には、

「不動産を持って家賃収入を得る」

という方法が、会社員が給与以外の収入を作る代表的な選択肢の一つとして語られていました。

書店に「普通の会社員の成功物語」が並んだ

そして、ブームが始まると成功者が現れます。

会社員なのにマンションを5戸持っている。

アパートを何棟も持っている。

家賃収入が給料を超えた。

会社を辞めた。

そうした人たちの本が出版されます。

その本を、別の会社員が読みます。

「この人ができたなら、自分にもできるかもしれない」

セミナーへ行く。物件を探す。銀行へ行く。

そして本当に融資が出る。1戸目を買う。

すると「本当に会社員でも大家になれた」という人が、また一人増えます。

こうして「普通の会社員でも大家になれる」という物語が再生産されていきました。

だから一時期、書店へ行くとサラリーマン大家の本が何冊も並んでいたのでしょう。

単なる投資手法ではなく、一つの成功モデルになっていたのだと思います。

もちろん、全員が成功したわけではない

ただし、ここは忘れてはいけません。

サラリーマン大家が増えたからといって、全員が儲かったわけではありません

高値で物件を買ってしまった人もいます。

空室に苦しんだ人もいます。

想定以上の修繕費が発生した人もいます。

サブリースをめぐる問題もありました。

大きな借金だけが残った人もいるでしょう。

融資がつくことと、その物件が良い投資であることは別です。

これは非常に重要なことだと思います。

銀行が3000万円貸してくれるからといって、その物件に3000万円の投資価値があるとは限りません。

むしろ「借りられるから買える」という環境だったからこそ、大きなリスクを取る人も増えたのかもしれません。

私は結果として8戸まで増やすことができましたが、それをもって「誰でもやるべきだった」と言うつもりはありません。

ただ、普通の会社員である私が、実際に8戸まで増やすことができた時代があった。

これは事実です。

今の私なら、同じことができるだろうか

そして最近、ふと思います。

もし今の環境で、私がもう一度ゼロから始めたらどうなるのだろう。

まだ不動産を一つも持っていない。

現金もそれほど持っていない。

ただ会社員としての信用力だけはある。

そんな状態から、2010年代と同じように融資を受け、1戸、2戸、3戸…と買い増していく。

果たして、同じように8戸まで増やせるのでしょうか。

もちろん、できる人はいると思います。

今でも会社員の不動産投資が不可能になったわけではありません。

しかし、物件価格は高くなりました。

金利も上がりました。

同じ家賃収入に対して必要な借入額は大きくなり、返済負担も重くなります。

金融機関の融資姿勢も、当時とまったく同じではありません。

少なくとも私は、

「2010年代と同じ感覚で、私自身、同じことをもう一度できる」

とは思えません。

ここに、時代の変化を感じます。

サラリーマン大家が増えたのは、偶然ではなかった

こうして振り返ると、サラリーマン大家があれほど増えたのは、単なるブームではなかったように思います。

会社員には信用力があった。

銀行は不動産を担保に大きなお金を貸すことができた。

金利が低かった。

借入を使っても収支が成立する物件があった。

そして会社員側には、給与以外の収入源を作りたいという需要があった。

さらに書籍やブログなどを通じて、

「普通の会社員でも大家になれる」

という成功物語が広がっていった。

いくつもの条件が、同じ時代に重なったのです。

だから、

「サラリーマン大家という人たちが突然増えた」

というより、

「サラリーマン大家が生まれやすい環境ができあがっていた」

と考えたほうが自然なのかもしれません。

ブームを作ったのは、人ではなく「時代」だった

私たちは、成功した人を見ると、その人の能力や行動力に注目しがちです。

「あの人は思い切って不動産を買った」
「リスクを取ったから成功した」

もちろん、それもあるでしょう。

私自身も、自分で物件を探し、契約し、借金をしてきました。

何もしなければ物件は保有していません。

しかし、今になって当時を振り返ると、それだけでは説明できないと思うのです。

金利。物件価格。融資姿勢。会社員としての信用力。

そして、その時代にどんな資産形成の物語が広がっていたのか。

同じ人間が同じ行動をしても、時代が違えば結果は変わります。

2010年代の私は、会社員としての信用力を使い、銀行から融資を受け、8戸まで不動産を増やしました。

当時は、それを自分の資産形成だと思っていました。

もちろん、それは間違いではなかったのでしょう。

しかし今振り返ると、もう一つの見方ができます。

私は、自分の力だけで物件を増やすことができたのではありません。

「普通の会社員でも不動産を増やせる時代」の中にいただけ。

そう考えると、サラリーマン大家があれほど増えた理由も見えてくるような気がします。

特別な人が大量に現れたわけではありません。

普通の会社員の信用力を、大きな借入に変換できる環境があった。

低金利という追い風もあった。

そして、その環境を使って資産を作ろうとする人たちが現れた。

私も、その一人でした。

前回、「サラリーマン大家は、どこへ行ったのか」と書きました。

もしかすると、サラリーマン大家が突然いなくなったわけではないのでしょう。

サラリーマン大家を大量に生み出した時代そのものが、少しずつ遠くなっている。

2010年代の自分自身を振り返ると、そんなふうに感じるのです。

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Posted by かずきび