「サラリーマン大家」はどこへ行った? 不動産投資ブームが静かになった理由

少し前まで、書店に行けば「サラリーマン大家」「会社員でもできる不動産投資」といった本が、かなり並んでいたように思います。
普通の会社員が銀行から融資を受けてワンルームマンションやアパートを購入する。
家賃収入でローンを返済しながら資産を増やし、やがて会社に依存しない生活を目指す。
そんな不動産投資が、一時期かなりのブームになりました。
ところが最近、以前ほど「サラリーマン大家」という言葉を聞かなくなったような気がします。
書店でも、サラリーマン向け不動産投資本の勢いが以前ほど感じられません。
もちろん、私の感覚にすぎない部分もあります。
しかし最近、不動産業者と話をしていて、少し気になる話を聞きました。
「最近は、個人にはなかなか融資がつかないんですよ」
というのです。
物件価格が上がり、金利も上がった
理由を聞けば、考えてみれば当たり前の話でした。
物件価格が高くなった。
そして、金利も上がった。
不動産投資では、物件そのものが魅力的であるだけでは足りません。
家賃収入から管理費、修繕費、固定資産税などを払い、さらに銀行への返済を行っても収支が成り立つ必要があります。
ところが物件価格が上昇すると、同じ家賃でも利回りは下がります。
そこへ借入金利の上昇が加わります。
1500万円を借りるのと2000万円を借りるのでは当然返済額が違いますし、同じ2000万円を借りても金利1%と3%ではまったく違います。
家賃だけが物件価格や金利に合わせて簡単に上がってくれるわけでもありません。
すると、
物件価格は高い。
金利も高い。
しかし家賃は、それほど上がらない。
という状態になります。
これでは、そもそも収支が合いません。
そして収支が合わなければ、金融機関としても融資を出しにくくなります。
銀行が貸さないだけではない
もう一つ、不動産業者から興味深い話を聞きました。
「個人の人が、金利上昇を嫌がって買わなくなっている」
という話です。
これは確かにそうかもしれません。
低金利の時代なら、
「借りられるのだから、借りて買おう」
という判断ができました。
ところが金利が上がってくると、
「今、この金利で何千万円も借りて大丈夫なのだろうか」
と考えるようになります。
しかも変動金利なら、将来さらに上がる可能性もあります。
つまり現在起きているのは、
銀行が個人に貸したがらない
だけではなく、
個人も銀行から借りたがらない
という、両側からの変化なのかもしれません。
実際に物件を売ってみて驚いた
実は最近、私自身も保有していた投資用不動産を1戸売却しました。
そのとき、2社の不動産会社に売却を依頼しました。
そこで紹介された買主候補を見て、少し驚きました。
ほとんどが不動産業者だったのです。
感覚的には、9割くらいが業者でした。
私は以前から不動産を保有していますが、
「投資用不動産の買い手って、こんなに業者ばかりだったかな」
と思いました。
もちろん、これは私が売却した一物件についての経験です。
これだけで不動産市場全体を語ることはできません。
しかし、先ほどの「個人に融資がつきにくい」「個人も金利上昇を嫌がっている」という業者の話と合わせると、妙に辻褄が合います。
個人が買わなくなると、売る側にも影響する
売主からすると、個人投資家に買ってもらえるほうが高く売れる可能性があります。
不動産業者は慈善事業ではありません。
購入した物件を再販するのであれば、当然、自社の利益を確保できる価格で仕入れる必要があります。
1900万円で売れると思う物件を、1900万円で仕入れる業者はいません。
それに対して、自分で長期保有する個人投資家なら、その人自身が最終的な買主です。
そのため、理屈の上では業者より高い価格を提示できる余地があります。
私自身、
「個人の買主がいたら、もう少し高く売れたのかな」
と思わないわけではありません。
同時に、
「金利がまだ低かった2年くらい前なら、違ったのかな」
とも考えました。
ただし、これは簡単には答えが出ません。
この2年間で物件価格そのものが上昇している地域もあるからです。
物件価格上昇というプラス要因と、金利上昇による購買力低下というマイナス要因。
両方が同時に動いています。
だから「2年前なら絶対に高く売れた」とは言えません。
ただ、一つだけ実感したことがあります。
物件価格が上がっていることと、自分の物件を個人が高く買ってくれることは、同じではない。
ということです。
「信用力を資産に変えるゲーム」だった
考えてみると、サラリーマン大家という仕組みは、とても面白いものでした。
普通の会社員には、何千万円もの現金はありません。
しかし、安定した勤務先と給与があります。
つまり、
現金は持っていないけれど、信用力は持っている。
その信用力を銀行が評価して融資する。
融資されたお金で不動産を購入する。
入居者から受け取った家賃でローンを返済する。
時間をかけて残債を減らし、自分の資産を作っていく。
そう考えると、サラリーマン大家とは、
「会社員としての信用力を、金融機関を通して資産に変換する仕組み」
だったのかもしれません。
だから、手元に数千万円の現金を持っていない普通の会社員でも、不動産投資というゲームに参加することができました。
金利が上がると、ゲームのルールが変わる
ところが、金利が上昇すると、この仕組みが機能しにくくなります。
物件価格が高くなり、借入額が増える。
借入額が増えたところへ、さらに金利が上がる。
収支が悪化する。
金融機関の融資も厳しくなる。
自己資金を多く求められる。
すると、「信用力はあるけれど、現金はそれほど持っていない」という普通の会社員が参加しにくくなります。
逆に有利になるのは、
すでに多くの現金を持っている人。
すでに複数の不動産を持っている人。
金融機関との取引実績がある人。
担保にできる資産を持っている人。
あるいは法人などを使って、すでに不動産賃貸業を事業として回している人。
つまり、
「資産を持っていない人が信用力を使って資産を作るゲーム」から、「すでに資産を持っている人が資産を増やすゲーム」へ。
少しずつ、不動産投資の性格そのものが変わってきているのかもしれません。
不動産投資が終わったわけではない
もちろん、不動産投資そのものが終わったとは思いません。
人口が減っても住宅需要がゼロになるわけではありませんし、立地の良い物件には今後も需要があります。
家賃が上昇する地域もあるでしょう。
金利が上がったからこそ、競争相手が減り、良い物件を買いやすくなる人もいるかもしれません。
ただ、
「普通のサラリーマンが、銀行融資を使ってゼロから不動産を増やしていく」
という、かつての王道モデルについては、以前よりかなり難しくなっているように感じます。
だからこそ、サラリーマン大家という言葉を以前ほど聞かなくなり、不動産投資本の景色まで少し変わってきたように感じるのかもしれません。
ブームが終わったのではなく、参加者が変わったのかもしれない
低金利時代には、会社員の信用力そのものが大きな武器になりました。
しかし金利が上がり、物件価格も高くなった現在、その武器だけでは戦いにくくなっています。
そして今回、実際に物件を売却してみると、私の前に現れた買主候補のほとんどは不動産業者でした。
偶然なのかもしれません。
私の物件固有の事情なのかもしれません。
それでも私は、少し象徴的な出来事のように感じました。
不動産投資ブームが終わったのではない。
不動産を買える人が変わってきた。
そして、買える人が変われば、売る側の景色も変わります。
かつて書店にたくさん並んでいた「普通の会社員が不動産で資産を作る」という物語も、低金利という時代背景があってこそ成立していたのかもしれません。
サラリーマン大家は、どこへ行ったのか。
もしかすると消えたのではなく、
「普通のサラリーマンでも参加しやすかった時代」が、静かに終わりつつある。
そんなことなのかもしれません。



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