誰も使わなかったホーム…OBP駅の地下に眠る「幻のホーム」とは?

はじめに
大阪には数多くの鉄道があります。
かつて存在した駅が廃止された「廃駅」や、線路そのものがなくなった「廃線」は、それほど珍しいものではありません。
しかし大阪には、
「完成したのに、一度も電車が発着しなかったホーム」
があります。
しかも場所は、人里離れた場所ではありません。
大阪城のすぐ近く。高層ビルが立ち並ぶ大阪ビジネスパーク、いわゆるOBPの地下です。
Osaka Metro長堀鶴見緑地線の大阪ビジネスパーク駅。
現在も多くの人が利用しているこの駅の上部には、本来ホームとして使われるはずだった空間が残されています。
私は以前からこの話を知っていました。
ただ、改めて考えてみると不思議です。
駅が廃止されたのなら分かります。
計画だけで終わったのなら、それも分かります。
しかし、
「ホームまで造ったのに、なぜ使わなかったのか」
そこには、OBPという場所ならではの事情がありました。
「廃ホーム」ではなく「未使用ホーム」
このホームの面白いところは、一般的な廃駅とは少し違うことです。
廃駅なら、かつてそこから電車に乗った人がいます。
しかし、OBPの幻のホームは、営業用ホームとして使われたことがありません。
当初、大阪ビジネスパーク駅は、現在よりも浅い位置にホームを設けることが考えられていました。
そして、そのための構造物も実際に造られました。
ところが工事計画は、そのまま進みませんでした。
理由の一つとなったのが、この場所の地形です。
地図を見ると分かる、OBPという特殊な場所
大阪ビジネスパークを地図で見ると、少し変わった場所にあることが分かります。
すぐ北側には寝屋川。
さらに東側には第二寝屋川があります。
大阪城の北東側にあり、複数の河川に囲まれたような場所です。
地上を歩いていると、高層ビルが並ぶ近代的なビジネス街なので、それほど意識することはありません。
しかし地下鉄を造る側から見れば、話はまったく違います。
川があるということは、その地下を安全に通過しなければなりません。
しかもOBP付近では、軟弱な地盤や高い地下水圧、既存の下水幹線なども考慮する必要がありました。
つまりここは、
「普通に地下鉄を掘ればいい場所」ではなかった
のです。
想定より、さらに地下へ
安全性などを考慮した結果、当初想定していた浅い位置ではなく、地下鉄をさらに深い場所へ通すことになりました。
その結果どうなったのか。
すでに造られていたホーム部分は使えなくなりました。
普通なら、
「造ったのだから何とか使おう」と考えたくなるところです。
しかし鉄道、とりわけ地下鉄では、安全性を犠牲にしてまで既存構造物を使うわけにはいきません。
こうして、
造られたホームを残したまま、そのさらに下に本物の駅を造る
という、なんとも不思議な構造が生まれました。
これが現在「幻のホーム」と呼ばれているものです。
なぜOBP駅は、あんなに深いのか
大阪ビジネスパーク駅を利用したことがある人なら、
「この駅、ずいぶん深いな」
と感じたことがあるかもしれません。
それもそのはずです。
現在の大阪ビジネスパーク駅のホームは、地下約32m。
大阪の地下鉄の中でも特に深い場所にあります。
そこまで深くなった背景には、寝屋川・第二寝屋川や地下構造物、地盤条件など、この場所特有の事情がありました。
そして現在の駅を建設する際には、通常の開削工法では施工が難しく、線路部分とホーム部分をまとめて掘り進める「3連マルチフェイスシールド」という特殊な工法まで採用されています。
つまりOBP駅の「深さ」は、単なる駅の特徴ではありません。
大阪の地下に地下鉄を通すために、技術者たちが出した答えそのものともいえます。
幻のホームの下を、毎日電車が走っている
この話で私が面白いと思うのは、幻のホームが山奥の廃線跡にあるわけではないことです。
OBP駅は1996年に開業し、現在も普通に使われています。
大阪城ホールへ行く人も利用しますし、OBPで働く人も利用します。
ホームには毎日電車がやってきます。
ところが、その少し上には、
電車が一度も来なかったホームがある。
同じ場所に「使われなかった大阪」と「現在の大阪」が上下に重なっているわけです。
そう考えると、いつもの駅が少し違って見えてきます。
「造ったのに使わない」は失敗だったのか
ここでもう一つ考えてしまいます。
せっかく造ったホームを使わなかったのなら、これは工事の失敗だったのでしょうか。
結果だけを見れば、使われない構造物を造ったことになります。
しかし、安全性などの問題が分かった段階で、
「ここまで造ったのだから、このまま使おう」
と無理をする方が危険です。
すでに使ったお金や労力に引っ張られず、必要なら計画を変更する。
今風に言えば「サンクコストに引きずられなかった」ともいえます。
幻のホームは、単なる工事の失敗跡というより、
「都市を造る途中で計画が修正された痕跡」
と見る方が面白いのかもしれません。
完成したものでも、使わない。
そして、さらに深いところに新しい駅を造る。
大阪の地下には、そんな判断の跡まで残っているのです。
幻のホームは今でも見られるのか
では、そのホームを実際に見ることはできるのでしょうか。
残念ながら、通常の利用者が自由に見学できる場所ではありません。
一般公開されている施設でもありません。
現在の駅を利用していても、
「ここに幻のホームがあります」
という案内板があるわけでもありません。
だからこそ、この話を知らなければ、ほとんどの人はその存在に気づかないまま駅を利用することになります。
大阪城ホールへ向かう人たち。
OBPへ通勤する人たち。
長堀鶴見緑地線で京橋方面へ向かう人たち。
その足元…正確には現在のホームより上の地下空間に、別の大阪の痕跡が残っています。
大阪の地下は、意外に深い
以前、私は大阪の地下鉄の深さについても調べたことがあります。
大阪の地下鉄というと、御堂筋線のような比較的古い路線を思い浮かべます。
しかし後から造られた路線ほど、すでに存在する地下鉄、地下街、道路、上下水道などを避けなければならず、地下深くへ潜っていく傾向があります。
大阪の地下もまた、地上の街と同じように、長い時間をかけて「積み重なってきた街」なのです。
その中でもOBP駅はかなり特殊な存在です。
地下約32mという深さだけでも十分面白いのですが、
その上に「もう一つのホーム」が眠っている。
そう考えると、この駅の深さそのものが一つの歴史に見えてきます。
大阪の地下鉄の深さについては、以前こちらの記事でも調べています。
おわりに――見えている大阪だけが大阪ではない
私は大阪で50年以上暮らしています。
大阪ビジネスパーク駅も何度も利用してきました。
それでも、普通に駅を利用しているだけでは、その地下にどのような歴史があるのかは分かりません。
地上には大阪城があり、OBPの高層ビルがあります。
その地下には現在の地下鉄があります。
そして、そのさらに別の層には、使われることのなかったホームが残っています。
現在の大阪の下に、実現しなかった大阪が眠っている。
私はこういう話が好きです。
大阪の街には、目に見える建物や道路だけではなく、計画されたもの、消えていったもの、途中で変更されたものが何層にも重なっています。
廃線、旧道、昔の商業施設、消えた地名。
そして、誰も使わなかった地下鉄ホーム。
普段何気なく歩いている場所にも、別の大阪が眠っているのかもしれません。
これからも、そんな「見えない大阪」を少しずつ掘り起こしていきたいと思います。
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