昔ドラクエ3を確保してくれたおもちゃ屋のおばちゃん…SCM的には「確保在庫」だった

はじめに
子どもの頃、私は近所のおもちゃ屋によく通っていました。
車の消しゴム。ビックリマンカード。野球のボール…。
買うのは、小さなおもちゃばかり。
今思えば大した金額ではありませんが、子どもなりにお小遣いを握りしめて通っていたのです。
そのおもちゃ屋には、いつも店番をしているおばちゃんがいました。
そしてある日、私はそのおばちゃんにお願いしました。
「ドラクエ3、発売日に買うから取っておいて」
当時のドラゴンクエスト3は社会現象とも言える人気でした。
発売日に手に入るかどうかも分からない時代です。
するとおばちゃんは、
「分かった。取っといたるわ」
と言ってくれました。
当時の私は、
「優しいおばちゃんだなぁ」
と思っていました。
しかし、業務改革コンサルタントとして、SCM(サプライチェーンマネジメント)の仕事を長年経験した今、あの出来事を振り返ると別の見方ができるようになりました。
今思えば「確保在庫」だった
SCMの現場では「確保在庫」という考え方が存在します。
例えば、得意先A向けの商品を確保した場合、その商品は得意先Bには出荷できません。
実際には倉庫に在庫があるにもかかわらず、
「これはA社向けだから使えない」
という状態になるのです。
SCM担当者や工場から見ると、なかなか厄介な仕組みです。
在庫は増える。管理も複雑になる。
全体最適から見ると非効率です。
しかし営業担当者は、それでも確保したがります。
なぜでしょうか。
営業が守りたいもの
営業担当者からすると、在庫そのものが重要なのではありません。
守りたいのは顧客との信頼関係です。
長年付き合いのある得意先。困った時に助けてくれた顧客。重要な取引先。
そうした相手から注文が来た時、
「ありません」
とは言いたくないのです。
だから「念のため確保しておこう」となります。
SCMの教科書にはあまり出てきませんが、現場ではよく見かける光景です。
おもちゃ屋のおばちゃんも同じだった
今振り返ると、おもちゃ屋のおばちゃんも同じことをしていました。
私は予約金を払ったわけでもありません。
契約書を書いたわけでもありません。
内示書を出したわけでもありません。
本当に買う保証などどこにもありませんでした。
それでも、おばちゃんはドラクエ3を取っておいてくれました。
なぜでしょうか。
おそらく、
「この子はいつも来る」「きっと買いに来る」
という信頼・絆のようなものがあったからです。
つまり、あのおばちゃんは私向けに在庫を確保してくれていたのです。
全体最適と個別最適
SCMの世界では「全体最適」という考え方が重要です。
在庫はできるだけ共有し、効率よく使う。
それは間違っていません。
しかし一方で、人間社会は効率だけで動いているわけでもありません。
信頼。人間関係。長年の付き合い…。
そうしたものも大切なのです。
営業担当者が確保在庫を持ちたがる理由も、そこにあります。
おわりに
子どもの頃の私はおもちゃ屋のおばちゃんを「優しいおばちゃん」としか思っていませんでした。
しかし大人になり、SCMの仕事をするようになってから気付きました。
あのおばちゃんは、私との信頼関係を大切にしてくれていたのだと思います。
もちろんSCMの観点から見れば、確保在庫は在庫増加や管理負荷の原因になります。
しかし、人間社会は効率だけでは動きません。
今でも営業担当者が確保在庫を持ちたがるのは、単に非合理だからではなく、その先に顧客との信頼関係があるからなのでしょう。
そして私は今でも、ドラクエ3を取っておいてくれたあのおばちゃんのことを、少し懐かしく思い出すのです。





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